2022.10.07その他
先日の記事に引き続き、8月24日(水)~9月1日(木)に行われた博物館実習の様子の一部をお届けします。今回は後編「巻子の扱い」です。
掛軸の扱いを実習した前編はこちら
江戸東京博物館は2022年4月1日~2025年度(予定)まで休館しているため、今年は分館の江戸東京たてもの園で実習が行われました。
数々の歴史的建造物が復元・展示されている園内。この日の実習は復元建造物「西川家別邸」の中で行われました。
趣のある和室。そんな西川家別邸で行われたのは「巻子の扱い」の実習です。
①作業前の大切な準備
和室で実習を行う施設は少ないのではないでしょうか?当館も例年はスタジオ等の作業机で行っていましたが、今年は休館により場所をたてもの園へ移したことで、このような機会が実現しました。実際の学芸員の仕事では、資料の借用等でお寺や個人宅に伺う場合があるため、今回はより実践的な環境での実習となりました。
掛軸を扱う時と同様に、巻子の実習も手を綺麗に洗うことから始めます。巻子を扱う際、借用等の場合は持ち主のご意向に合わせて手袋をしますが、指先の感覚を大事にしながら行う作業のため素手で扱うことも珍しくありません。今回は会水庵の水場を特別にお借りして手を洗いました。
その他にもマスク着用、指輪・腕時計は外す、ネイルは禁止、手荒れに気を付けるなどの注意事項を厳守し準備完了です。
趣のある会水庵の水場。気持ちも整いますね。
②巻子の巻き方~展示方法
今回、巻子の実習を担当したのは当館の西村学芸員。学芸員の指導のもと、まずは練習用の白紙の巻子で扱い方を学びます。
巻子の巻緒を軽く結んで、端を気にかけながら肩幅くらいに広げる→巻く→広げる→巻く、を繰り返します。練習用の巻子は白紙ですが、本来はこの作業を繰り返しながら巻子に描かれている絵や文字を確認していきます。単純な作業のように見えますが、均等に巻いていくのは意外と難しい!学芸員が扱うようにはいかず、みなさん最初は悪戦苦闘。作業の途中で片側に偏りができ「タケノコ」のようになってしまいます。そんな時は無理に整えると資料が痛んでしまうので、巻き直して整えていきます。
なかなか作業が進まない実習生へ「自転車に乗る時のように、目の前だけ見ると進めない、少し先を見て巻くイメージで」「指先の感覚を信じて」とアドバイスを送る西村学芸員。調査先での作業は緊張することもあるそうですが、焦らずに進めることが大事とのこと。
絵を確認しながら巻子を巻き進め、展示したい場面になったら両端に「卦算(けさん)」を置いて展示します。卦算とは文鎮の一種で、巻子のようなロール状の資料を押えて展示する際に使用します。資料の幅より多少長いサイズを選ぶのがポイント。
白紙の巻子で練習した後は、ベルリン国立アジア美術館所蔵「熈代勝覧」の複製で練習をしました。絵があると展示のイメージも湧きますね。
実習生のみなさんは、描かれている絵にも興味津津。絵を楽しみながら作業を進めていました。
和室での作業は趣がある…とはいえ、作業が続くにつれ空調のない室内は徐々に蒸し暑くなってきました。この日の気温は30度に届かない涼しい気候でしたが、それでも作業を続けていると汗ばんできます。
実際の作業でも、お寺での調査は真冬や酷暑など厳しい環境の時もあると、西村学芸員。そうした環境下では手を洗えない時もあるため、ウェットティッシュを準備するなど、汗が作品に落ちないような配慮が必要です。そのようにして、こちらが整えることは調査先の相手との信頼関係を築くことにもなると、教えてくれました。
③実習を終えて
例年以上に、現場の雰囲気に近い環境で行われた巻子の実習。実習生のみなさんはいかがでしたでしょうか?
何度も繰り返して応用編まで学んだ掛軸の実習、復元建造物の和室で行った巻子の実習。どちらも、実際の現場の雰囲気に近い環境で行われ、より実践的な学びの機会になったかと思います。今回紹介した以外にも、収蔵庫見学や資料カードの作成、展覧会基本計画、キャプションの作成など、さまざまな実習が行われました。
学芸員資格を取得するカリキュラムの多くが「○○論」といった理論を学ぶなか、博物館実習は現場で学ぶことのできる貴重な機会。受け入れる側の当館としても、みなさんに充実した時間を過ごしていただけるよう身の引き締まる思いです。
いつか一緒に働くことになった学芸員の中で「博物館実習は江戸東京博物館、たてもの園でした!」という方がいたら、とても嬉しいです。
実習生のみなさん、6日間お疲れ様でした!引き続き、学芸員資格取得を目指して頑張ってください!