2015.10.13展覧会レポート
皆さんは、大相撲の優勝額というものをご存知でしょうか。国技館の高い所にずらりと掲げられている、優勝力士の姿を映した額のことです。この優勝額は場所ごとに2枚ずつ掛け替えられており、以前の掛け替えでおろされた優勝額が、両国駅の西口に飾られているのをご覧になったことがある方もいらっしゃると思います。
さて、先日の秋場所を前におろされた二つの優勝額のうち、地元の部屋というご縁もあって白鵬関の優勝額を、特別展「浮世絵から写真へ -視覚の文明開化-」において展示することになりました。なぜ、大相撲の優勝額が絵と写真の展覧会に関係してくるのでしょうか。
展覧会の内容は、浮世絵をはじめとする絵と、幕末期に渡来した写真が、幕末から明治にかけて織りなした多彩な表現を紹介し、日本文化の近代化の一面を明らかにするものです。つまりこの、絵と写真の出会い、という観点に立った時、昭和26年(1951)から平成25年(2013)までに制作された優勝額が、モノクロ写真に油絵具で彩色したものであることに気付かされたからです。まさに絵と写真の融合による作品なのです。
優勝した力士の写真(当初はモノクロ)を国技館に掲げることは、明治42年(1909)から始まっており、戦中戦後に中断した時期があるとはいえ、長きにわたる伝統があります。また力士は、江戸時代の浮世絵における人気の画題のひとつで、美人画、役者絵と並んで数多くの作品が作られました。そして時代が明治に代わっても力士の浮世絵は作り続けられており、相撲絵がいかに人々に愛されてきたかがうかがえます。画面一杯に描かれた堂々たる力士の絵姿は、優勝額に十分通じるものがあります。
このように、現在も掲げられている優勝額は、強い力士の姿、人気の力士の姿をとどめておきたいという、まさに浮世絵と写真の歴史の中から生まれてきたものと言えるでしょう。
今回展示する白鵬関の優勝額は、平成21年(2009)11月場所において全勝優勝したときのもので、当館所蔵の相撲の浮世絵とともに、会期中ずっとご覧いただけます。普段は高い所にある優勝額ですが、縦3.17m、幅2.26m、重さ80㎏もある優勝額を間近にご覧いただくと、その大きさやカラー写真とは異なる色合いに、改めて驚かされることと思います。