2017.08.31展覧会レポート
8月11日(金・祝)、企画展「徳川将軍家へようこそ」が始まりました。
関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康が、征夷大将軍の宣下を受け、江戸幕府を開いたのは1603年(慶長8)のことです。家康は将軍職を2年で息子の秀忠に譲り、それ以降将軍職は徳川家によって代々世襲されました。
徳川将軍家を中心に幕府と諸藩が統治を行なった江戸時代は、戦いのほとんどない時代です。その260余年の歴史のなかで、漆芸、染織、金工など数々の匠の技は精緻を極め、見立てや遊び心などの多彩な美意識も育まれて、生活様式や文化に大きな影響をもたらしました。
本展では、公益財団法人德川記念財団が所有する德川宗家伝来の資料の中から、歴代将軍ゆかりの品々を展示し、15代にわたる将軍たちと徳川将軍家についてご紹介します。
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ここでは、展示のみどころとして、第二章「大奥のみやび」に展示中の屏風を詳しくご紹介します。
燕子花に水草・渓流鮎図夏屏風(両面)
狩野素川寿信筆/江戸時代19世紀/德川記念財団蔵
右隻/表
右隻/裏
打ち水、風鈴に、団扇。気温も湿度も高い日本の夏をしのぐため、人々は古来より知恵を絞って暮らしてきました。この夏屏風も、そんな先人たちの工夫がこらされた道具の一つです。
表面には、大きくカーブする水辺の景色が広がっています。水中に点在する二色の燕子花の根元には緑濃い水草が浮かび、岸辺には芦、沢潟や水葵の姿も見えます。ゆるやかに渦を巻く水の流れに、表情豊かな蛙たちがのどかな印象を添えています。
一方、裏面に描かれるのは、スピード感ある流水表現をともなった水中の景色です。ゆれる水草に身をひるがえす鮎。目をこらせば、手長蝦が躍り、亀が手足をのばしています。淡く抑えた色づかいもあいまって、透き通った水の冷たさが伝わってくるようです。
筆者の狩野素川寿信は、奥絵師四家から独立した表絵師諸家のうち、猿屋町代地家に属し、オランダ国王に贈る屏風を制作するなど、幕府御用絵師として幕末期に活躍しました。
各扇中央にはめ込まれた障子は、間仕切りしながらも風通しがよく、表では、漆塗の格子と枠が画面を引き締め、裏ではその影が淡く画中に溶け込みます。構造、機能、趣向にわたって施された仕掛けによって、この屏風は両面にひとときの涼をもたらしたことでしょう。
現在開催中の企画展「徳川将軍家へようこそ」にて、初公開しています。右隻は9月3日(日)まで、左隻は9月5日(火)~24日(日)に展示します。将軍家ゆかりの品々とともに、両面をじっくりとご覧ください。