2016.08.25展覧会レポート
全生庵は幕末から明治の幕臣・政治家・剣術家である山岡鉄舟によって、1883年(明治16)東京・谷中(台東区)に建立された臨済宗のお寺です。鉄舟と親交のあった落語家三遊亭圓朝の墓があり、「牡丹灯篭」、「真景累ヶ淵」など怪談噺の作者としても知られる圓朝が集めていた幽霊画のコレクションが収蔵されています。
江戸東京博物館では、全生庵ゆかりの品々を中心として、8月11日(木・祝)から二つの企画展(「伊藤晴雨 幽霊画展」、「山岡鉄舟生誕180年記念 山岡鉄舟と江戸無血開城」)を同時開催する運びとなり、8月10日(水)、プレス・関係者向け内覧会を常設展示室中村座前で行いました。
藤森館長、全生庵平井住職、スタジオジブリ鈴木プロデューサーの挨拶に続き、「伊藤晴雨 幽霊画展」にご協力いただいた日本美術史家で特別展「大妖怪展」の監修者の安村敏信氏のご紹介後、テープカットが行われました。
そして、今回の展覧会を担当した学芸員(「伊藤晴雨 幽霊画展」:小林愛恵、「山岡鉄舟と江戸無血開城展」:小酒井大悟)が紹介され、各展示室で展示解説が行われました。
その後、中村座前に毛氈を敷いた席が設けられ、鼎談「「藤森照信館長×全生庵住職平井正修×スタジオジブリプロデューサー鈴木敏夫-全生庵とゆかりの品々-」が行われました。
前半は、廃仏毀釈で廃寺になっていた場所に、山岡鉄舟が建立したことなど全生庵の成り立ちについて、また、山岡鉄舟による駿府での西郷隆盛との江戸無血開城の談判について、藤森館長と平井住職が話し合いました。
後半は、鈴木プロデューサーが昨年、全生庵で毎年開催される幽霊画展を訪れ、伊藤晴雨が描く幽霊画に出会って魅せられたことが展覧会開催のきっかけとなったこと、幽霊画の画家としては未知の存在である伊藤晴雨が再評価されることを願っているといったお話がありました。平井住職によれば、全生庵ではここ30年、8月は三遊亭圓朝の幽霊画コレクションを展示しているそうですが、昨年は、東京藝術大学大学美術館で開催された「うらめしや~冥土のみやげ展」にこのうちの一部を貸し出したために展示スペースが空き、久しぶりに柳家小さんコレクションの伊藤晴雨の幽霊画を展示したそうです。
また、藤森館長が、伊藤晴雨は風俗考証画を多く手がけていることから、幽霊画においても幽霊の周辺の情景がリアルに描かれており、そのことが幽霊の怖さを際立たせていることを指摘すると、鈴木プロデューサーが、スタジオジブリのアニメーション制作もディテールのリアル追及から出発することが話され、江戸の画風を守りながらも近代的なディテールのリアルさにこだわる伊藤晴雨の幽霊画は「ジブリの眼鏡にかなったんですね」と藤森館長が納得の表情。
そこから全生庵では展示室設置以前はお寺のお堂に幽霊画をずらっと掛けて、その空間で法要が行われていたことなどが話されました。その他、「山岡鉄舟の資料は常時お寺で展示されているのですか?」という館長の問いに、平井住職が「毎年7月19日の鉄舟忌前後の一週間、展示しています」と答えられました。今回の二つの企画展が、全生庵ゆかりの貴重なコレクションを一度にご覧いただける、またとない機会であることが明らかとなったところで、鼎談はお開きとなりました。
なお、鼎談はコチラからご覧いただけます。