司書のオススメ図書紹介

当室に所蔵する書籍の中から、司書がオススメ図書をピックアップします。
書籍の見どころや豆知識もご紹介しておりますので、ぜひご利用ください。

過去の図書リストはコチラ(PDFファイル)window open

2016年

 2016/12/26

戦争中の暮しの記録

162号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/12/16 182号掲載)

“戦争をしよっても、蝉は鳴くし、蝶々は飛ぶ”
“なんでも使って暮らし続けるのがうちらの戦いですけえ”
現在公開中の映画「この世界の片隅に」(片淵須直/監督 こうの史代/原作)には、
太平洋戦争中に広島から呉へ嫁いだ主人公すずの目線で普通の人の当たり前の暮らしが
淡々と描かれています。
すずの言葉が表すように、「戦争」という非日常の時間の中にも、限られた物資や
食料を工夫して家族の暮らしを切り盛りし、ささやかなことで笑いあうような
「日常」があったのだということが強く印象に残りました。こうした日々の営みを
どうしようもなく奪ってしまう戦争の恐ろしさも。
映画を観ながら思い浮かべたのは、暮しの手帖社発行の『戦争中の暮しの記録』です。
“温かな暮らしを大切にすることを提案し、二度と恐ろしい戦争をしない世の中に
したい”という思いから雑誌『暮しの手帖』を創刊した花森安治と大橋鎮子。
96号(昭和43年8月)では、一冊まるごとを読者から募集した戦中の手記にあてて
特集を組みました。経験者自らがつづる生の声から、戦時下の庶民の暮らしが浮かび
上がります。
“この号だけは、保存して後世に残してほしい”と花森があとがきに記した通り、
計90万部を売切り、翌年には保存版として単行本を発行、現在も版を重ねる
ロングセラーとなっています。
着物をほどいて作るもんぺ、一升瓶での精米、米が何倍にも膨らむ楠公飯(でも美味
くない)…。本書に記されたモチーフは、上述の映画でも端々に登場します。
多くの方に手にとっていただけたらと願う一冊、7階図書室でご覧いただけます。

・『戦争中の暮しの記録 保存版』暮しの手帖社1969年 9160/191/69

[関連リンク]
・映画「この世界の片隅に」公式サイト http://konosekai.jp/window open

 2016/11/22

写真が語る激動のふるさと一世紀

161号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/11/18 181号掲載)

現在(2016年11月)、図書室の特集コーナーでは、今年度に新しく収蔵した図書を
ご覧いただくことが出来ます。
その中の一冊『目で見る新宿区の100年』(郷土出版, 2015年, 2136/L925/0015)は、
「写真が語る激動のふるさと一世紀」という副題の通り、
明治から昭和というおよそ100年分の写真でその地域を振り返る写真集ですが、
プロの写真家によるものだけではなく住民提供の写真が多いことが特色です。
序文には「あっと驚くような写真や事件は扱っておりません」と述べられていますが、
災害や戦災の写真が数多く見られるのは、この100年がいかに激動の時代だったのかを物語ります。
また、「副都心」と呼ばれる新宿の街並みが刻々と変わっていくのが分かるのも、
写真集ならではといえるでしょう。
『目で見る100年』シリーズは東京のほかの区市も刊行されており、
懐かしさだけではないその時代の地域の暮らしを実感させる写真集となっています。

 

 2016/10/21

江戸3D!『江戸のしかけ絵本』

160号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/10/21 180号掲載)

「立版古」をご存じですか? 「たてばんこ」と読みます。
江戸の(浮世絵)版画にはおもちゃ絵というジャンルがあります。
すごろく絵やかるた絵などがそれにあたりますが、立版古もおもちゃ絵の一形態です。
版画として刷られている状態では全容はわかりませんが、パーツごとに切り取り、
それを組み上げたり立ち上げたりすることで立体的な光景があらわれます。
『江戸のしかけ絵本』(グラフィック社・2015年 7218/553/15)には、
武蔵野美術大学美術館・図書館コレクションをもとに、
明治時代中頃の種々の立版古がその組み上がり写真とともに収録されています。
歌舞伎の名場面あり、江戸戯作を題材にしたものあり。似たものとして、
今日の「とびだす絵本」や開くと立体的な「グリーティングカード」などの
ペーパークラフトを思い浮かべていただくとわかりやすいでしょうか。
それにしても、細部まで凝っています。
お気に入りは、昔話「したきりすずめ」をモチーフにしたもの。
小さなつづらを開けた爺と、大きなつづらを開けた婆とで、
できあがりが変えられるようです。
婆と大きなつづらの方には魑魅魍魎(ちみもうりょう)が!

 

 2016/09/16

シーボルトの視点

159号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/9/16 179号掲載)

大興奮のうちに幕を閉じたリオデジャネイロオリンピック。18日に閉会となるパラリンピック。
どちらも選手たちの全力のプレーとすばらしい記録に連日胸が熱くなりました。閉会式では
日本のアニメが取り上げられ話題になりましたね。海外の方にとって日本を代表するものといえば
アニメなのでしょう。しかし、日本人にとってはあまりにも身近にありすぎて1番にアニメを
挙げる人はあまり多くはないと思います。私たちにとっては当たり前でも、外国の方は
驚嘆するものが多々あるようです。同じものでも新たな視点で見ると、とても新鮮に
感じ勉強になります。
1823年に来日したシーボルトは日本の豊かな自然や独特の文化に強い興味を持ちました。
日本人にとってそれらは決して特別なものではなく、日常の風景であり生活の一部でしたが、
シーボルトの目を通して見てみると新たに日本の魅力が見えてきます。
2020年のオリンピック・パラリンピック開催国としておもてなしをする際、
外国の方はどんなものに興味をもつのか、時代は異なるもののシーボルトの視点が
参考になるのではないでしょうか。
図書室では、ヨーロッパでの日本研究の基礎となった「日本 (Nippon)」の
和訳本をはじめ、「日本植物誌 (Flora Japonica)」の全151図が掲載された本など、
特別展にあわせてシーボルト関連図書を集めました。特別展をご覧になった後は、
7階図書室でシーボルトの見た日本の姿をゆっくり堪能してください。

 2016/08/19

『民間備荒録』

 158号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/8/19 178号掲載)

江戸時代は、教科書にも出てくるような大飢饉をはじめ、 しばしば飢饉にさいなまれました。
一関藩の藩医であった建部清庵は、宝暦五年、領内の大飢饉に遭遇し、 救荒書である『民間備荒録』を書き上げました。
飢饉の時に食糧となる植物の栽培方法や保存、加工法、 草や木の葉の食べ方や、誤った食べ方で中毒を起こした時の解毒法などなど、 当時、すぐに役立ったのだろうと思われる内容です。
そして、ちょっと感動してしまうのは、 ほとんどの漢字にふりがなが振ってあり、 草木の名前には、その土地の方言も記されています。
誰が見てもわかりやすいように、 農民の苦労を少しでもやわらげたいという 建部清庵の心遣いが感じられます。
『民間備荒録』は『日本農書全集 第18巻』(農山漁村文化協会,1983年, 6108/1/18-S00) に収められており、翻刻、現代語訳、解題が付いているので、 とても読みやすく、わかりやすくなっています。
戦時中も、このような救荒書を参考にしたようですが、 激しい天災に見舞われることのある現代でも 活用できる情報がありそうな書物です。

 2016/07/15

浮世絵から見る江戸の食卓

 157号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/7/15 177号掲載)

先日、今年初の西瓜をいただきました。片手で簡単に持てるサイズの小玉西瓜。
幼い頃から慣れ親しんだ、大きくて重たい西瓜とはずいぶんと違う姿だと感じましたが、
味は記憶と違わず甘く美味しい西瓜でした。
『本朝食鑑』によると江戸時代の人々は、 西瓜の中に砂糖を入れ時間を置き、
甘くなってから食べていたと記されています。
当時の西瓜は私たちが食べる西瓜より甘さが薄かったのでしょうか、
それとも 江戸の人々が相当な甘党だったのでしょうか。
西瓜は江戸時代に描かれた浮世絵にも 登場しています。
はだけた着物姿に団扇(うちわ)を持つ女性の傍らに置かれた 赤い西瓜、
袖をたくしあげ本気で西瓜を食す女性などが描かれています。
『浮世絵に見る江戸の食卓』(林綾野/著,美術出版社,2014年)では西瓜が登場する場面をはじめ、
冷水に沈んだ 白玉を掬(すく)う姿の涼しげな女性や、夏のスタミナ料理の代表である鰻を
食す姿の浮世絵などが紹介されており、江戸の食卓を窺い知ることができる 1冊となっています。
視覚から江戸の人々の食卓に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
ぜひ、図書室で手にとってご覧ください。

・『浮世絵に見る江戸の食卓』 林綾野/著 美術出版社 2014年 (3838 / 252 /014)
・『本朝食鑑 2 東洋文庫 312』 人見必大/著 島田勇雄/訳注 平凡社 1977年 (4999 / 17 / 2 )

 2016/06/17

向田邦子のエリザベス

156号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/6/17 176号掲載)

黒柳徹子さんの半生を描いたNHKドラマ「トットてれび」。第5回放送では、脚本家として活躍した向田邦子さんと主人公トットちゃんとの交流が丁寧に描かれました。ミムラさん演じる向田さんは、往時の写真から抜け出したかのようなたたずまい。万年筆で走り書きする原稿の文字(後年には芯の柔らかい鉛筆を用いたことも一瞬の映像で再現!)、留守番電話や“かわうそ”のエピソード、執筆時には髪をスカーフでまとめ“勝負服”を着用したこと……記憶の片隅に残っていた向田作品(エッセイ)の断片がテレビの画面を通して次々とよみがえり、新鮮でいて懐かしいような不思議な感覚が起こりました。
なかでも印象に残ったのは、机に向かう向田さんが黒いタートルネックに合わせて羽織っていた赤いモヘアのカーディガン。向田家伝来でモモンガのようなゆったりとした袖がからだを包み込む手編みの変形カーディガン“エリザベス”です。プレゼント魔の向田さんはこれを多くの友人たちに贈ったといいます。ふわふわとしたニットが醸し出す暖かくリラックスした雰囲気は、トットちゃんが束の間の日々を過ごした向田さんの部屋の親密で優しい空気と重なり、居心地の良い空間を象徴しているようにも見えました。
かごしま近代文学館で2014年に開催された展覧会「続向田邦子の装い」の図録『装い—向田邦子のおしゃれ術』では、勝負服やよそゆきのスーツなど向田さんが愛用した洋服の数々をポートレートやエッセイとともに紹介。エリザベスの名前の由来や簡単な編み図も掲載されています。気になった方はぜひお手にとってご覧ください。

『装い--向田邦子のおしゃれ術』かごしま近代文学館2014年 M97/KA-13/11
※本図録の増補再編集版『向田邦子 おしゃれの流儀』向田和子, かごしま近代文学館編(新潮社とんぼの本)が2015年に刊行されています。

[関連リンク]
かごしま近代文学館 http://www.k-kb.or.jp/kinmeru/window open
「トットてれび」(NHK) http://www.nhk.or.jp/dodra/tottotv/window open

 2016/05/25

立川文庫と「真田幸村」

155号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/5/20 175号掲載)

 2016年4月29日から6月19日まで、特別展示室ではNHK大河ドラマ『真田丸』展を 開催しています。『真田丸』は戦国時代を舞台に、真田信繁を主人公とした物語です。 もしかしたら信繁には馴染みがないという方も、通称の「幸村」というとピンと くるかもしれません。かつては、真田といえば幸村とそれに従う十勇士がよく知られていました。 こうした物語の普及に一役買ったのが立川文庫です。立川文庫は大阪の立川文明堂が 明治から大正時代にかけて出版した講談本のシリーズで、特に史実を超えた真田幸村の活躍、 忍者佐助をはじめとする真田十勇士の物語は子どもたちに絶大な人気を博しました。 図書室では特別展会期中、小展示『語り継がれる真田のものがたり』にて立川文庫の 復刻本を展示していますので、この機会にぜひご覧ください。

『復刻立川文庫傑作選 5 真田幸村』講談社 1974年 9136/586/5

『復刻立川文庫傑作選 40 猿飛佐助 真田三勇士忍術名人』講談社 1974年 9136/586/40

 2016/04/20

『ザ・富士山 対決! 北斎vs.広重』

154号(江戸東京博物館メールマガジンwindow open 2016/4/15 174号掲載)

 先日、富士山と桜をいっしょに写真におさめたくなって東京から山梨方面に車を
走らせました。どれくらいの大きさで富士山を撮りたいかにもよりますが、
昔は撮影スポットは都内街中でもいくつもあったと思います。さかのぼること
江戸時代はどうか。この時代、風景・景色を切り取っていたもののひとつは
浮世絵版画です。

『ザ・富士山 対決! 北斎vs.広重』(新潮社・2014年)は“同じ場所から
富士山を描いて、なぜこんなにちがうの?”と…北斎と広重の作品を比較、
対決させてどちらに軍配があがるか、一枚一枚ジャッジしています。かたや
北斎勝利!! かたや広重勝利!! あるいは引き分け、といった具合です。

 さて、富士山と桜がいっしょにおさまっている作品はというと、例えば
広重の富士三十六景「東都隅田堤」。浅草つながりということで、対する北斎は
富嶽三十六景「東都浅艸本願寺」。結果は…引き分け!