「江戸」はいつ頃から「江戸」と呼ばれるようになったのか。「江戸氏」とは関係があるのか。(2015年)

2016/02/03

 現存する史料からは「江戸」と呼ばれ始めた正確な年代は不明ですが、武蔵平氏の一流秩父氏が12世紀前半に江戸地域に進出し、その地名から「江戸氏」を名乗ったと考えられるので、少なくともそれ以前にはすでに「江戸」という地名が存在したと思われます。


 

(回答プロセス )

【資料1】『国史大辞典』第2巻によると、「江戸」は『吾妻鏡』治承4(1180)年8月26日条(備考※1)に江戸太郎重長という武将の名として登場するのが初見。
地名としての「江戸」が史料に登場するのは、【資料2】【資料3】の通り。
【資料2】『東京都の不思議事典』上巻によると、弘長元(1262)年、江戸長重譲状「武蔵国豊嶋郡江戸郷之内前嶋村」(関興寺文書)(備考※2)
【資料3】『大田区史』上巻によると、弘安4(1281)年、平重政譲状「江戸郷柴崎村」(佐賀県深江家文書)
つまり、現存する史料には地名としての「江戸」より「江戸氏」が登場する方が早い。
しかし、実際には地名が先で、江戸氏がその地名を名乗った可能性が高いとする文献が殆どである。
【資料4】『江戸氏の研究 関東武士研究叢書』第1巻によると、江戸氏はもともと武蔵平氏の一流秩父氏であり、12世紀前半には秩父四郎重継が「江戸」と呼ばれる土地に進出し居を構えた。
【資料5】『東京市史稿 市街篇』第1巻によると、江戸氏も他の秩父氏系統の武士団(畠山氏、葛西氏等)と同様に本拠地とした地名を名乗ったと考えられる。
よって、少なくとも江戸氏が史料に登場する以前から「江戸」という地名が存在したと推測できる。
しかし、具体的な年代は不明。
(「江戸」の由来については備考※3参照。)


(参考資料)

【資料1】『国史大辞典』第2巻 国史大辞典編集委員会編 吉川弘文館 1986年 2100/352/2-S00 p.307

【資料2】『東京都の不思議事典』上巻 樋口州男他編 新人物往来社 1997年 2913/824/1 p.67-68

【資料3】『大田区史』上巻 大田区史編さん委員会,西岡秀雄編集 大田区 1985年 C3652/2136/12-01

【資料4】『江戸氏の研究 関東武士研究叢書』第1巻 萩原龍夫編 名著出版 1977年 2881/6/77 p.23

【資料5】『東京市史稿 市街篇』 第1巻 東京市役所編 東京市 1914年 C3610/2136/21-1 p.493

【資料6】『江戸東京学事典』(新装版)小木新造他編 三省堂 2003年 2913/1043/003 p.13

【資料7】『地方別・日本の名族』第3巻(関東編 1)新人物往来社 1989年 2882/9/3 p.186

【資料8】『日本人の名前の歴史』奥富敬之著 新人物往来社 1999年 2881/26/99 p.97

【資料9】『姓氏家系歴史伝説大事典』志村有弘編 勉誠出版 2003年 2881/28/003 p.229

【資料10】『江戸東京残したい地名』本間信治著 自由国民社 2009年 2913/1136/0009-S00 p.243

【資料11】『日本歴史地名大系』第13巻 東京都の地名 平凡社地方資料センター編 児玉幸多監修 平凡社 2002年 2910/139/13-S00 p.110

【資料12】『角川日本地名大辞典』13(東京都) 「角川日本地名大辞典」編纂委員会編 角川書店 1991年 2910/2/14-S00 p.130

【資料13】『海と千代田の6000年』展図録 千代田区立四番町歴史民俗資料館 平成21年10月26日 M3634/YO-001/ 023 p.45

【資料14】『新編姓氏家系辞書』太田亮著 丹羽基二編 秋田書店 1994年 2881/16/94 p.220

【資料15】『新編千代田区史 通史編』東京都千代田区 1998年 C3634/2136/21-1 p.127


(備考)

※1 『吾妻鏡』(吉川本 第1-3. 吉川本 上卷)(国立国会図書館デジタルコレクション)  http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1920980/25window open

※2 江戸長重譲状(関興寺蔵)(新潟県庁HP)  http://www.pref.niigata.lg.jp/minamiuonuma_kikaku/1356787500981.htmlwindow open

 (関連事例)

※3「『江戸』の由来について」(江戸東京博物館図書室)  http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000013901window open

 

 (レファレンス協同データベース版)http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000185622window open